Vol.188西穂高岳日帰り登山 -山岳小説に挑戦-

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「And away we go(さあ出発だ)」と僕らは何度も叫んだ。

 時計を見ると午前2時。あと30分で精田が家に迎えにくる。小学生の頃の遠足に似た感覚なのか、なかなか寝付けなかった。眠たい目をこすりながらゆっくりと起き上がり大きく背伸びをする。睡眠不足にも関わらず妙に清々しい。リュックの中身を再確認し身支度を整える。新しく購入したステッキを最後にしまいこみ準備は完了だ。左肩にリュックをかけて玄関の鍵を閉める。10kg弱あろうリュックは華奢な僕には大きな負担だ。外は思った以上に寒かった。”It is very cold.”と小声で呟きながら、今回登る西穂高岳の山頂の寒さを想像する。”大丈夫だろうか” 一瞬不安な気持ちになるがすぐに”すべては上手くいく”という気持ちが低い壁を越えていく。そんなことを考えている内に、精田の車,ハイラックスサーフのヘッドライトが近づいてきた。

 後部座席のドアを開けると「おはようございます」と精田が少し眠そうな声で挨拶をしてきた。「おはよう」と石原裕次郎のモノマネで返してみるが反応はない。「眠れたか」と聞くと、精田は「ちょくちょく目が覚めましたー」と、体調が万全ではないであろう返事をしてきた。松阪から目的地の新穂高ロープウェイまでは片道5時間程度かかる。流石の僕でも少し心配した。途中の御在所SAで午前3時30分に伊藤と待ち合わせをしている。この時間の高速道路はほとんど車は走っておらず、四日市に向かっているであろうトラックを数台見る程度である。早朝からご苦労様です。と腹の内で思いながら「音楽どうする」と僕は精田にふと尋ねた。「iphone につなげますよ」すると僕は「じゃあNorah Jonesだ」と言って慣れた手つきでiphone上で親指を回転させる。「What did you say~~~~~~~~」この曲を聴いているとコーヒーが飲みたくなる。僕は完全に曲に酔っている。数十秒後、精田がハニカミながら一言、「眠くなります」と。いかん、いかん、運転手のことを考えていなかった。

 時間より少し早く御在所SAに到着し、待つこと5分、「お疲れー」と伊藤が右手を挙げる。この男、長身である。これで全員集合だ。朝食と水分を購入し、さあ出発である。「精田、ビデオある」と聞くと、すぐに「任せてくださいよー」とビデオカメラを僕に渡してくれた。そう、精田はビデオカメラを持ち歩く、自称山岳ビデオマンだ。「はじまりましたー」と僕のお決まりのいつもより1オクターブ低い声から始まるシリーズは既に何回か撮影されている。今回も「はじまりましたー。時刻は午前4時ー。西穂高岳に向かいまーす」を皮切りにビデオ撮影は始まった。

 車は順調に進んでいき、目的地の新穂高ロープウェイの駐車場には運行時間の1時間前の午前7時30分に到着した。外に出ると「寒ー」「サムー」「SAMー」と3人が共通認識をした。SUNTOの時計が示す温度は6°。新作のTHE NORTH FACEのフリースを着込む伊藤を見て、僕もMILLETの赤いリュックからColumbiaのフリースを着込む。この3人はみんな自由でお調子者だ。僕はふと、思い出したように鞄のなかからDIESELのサングラスを取り出しかけて笑いを狙う。そう、岩田は笑いの自称横綱だ。自分でも思うが”全く以て似合っていない”。しかし雲ひとつない快晴のおかげで何をしても笑えるし気持ちがいい。これはいわゆるRunners Highに似た感覚なのだろう。始発のロープウェイを待つ人は既に20人くらいいた。だいたいが中高年だ。いつも思うがこんな年の取り方をしたい。8時25分。定刻より少し前にロープウェイは動き出した。流石、日本一の高低差を誇るだけあって、傾斜が急である。中高年の悲鳴に近い、奇声が飛ぶ。「イヤーン」「ワー」「ダメー」。研一、真一、直一は微動だにしない。3000メートル級の山々が連なる北アルプスを間近に僕らのテンションは跳ね上がる。「あれが西穂高岳かー」遠くにみえた西穂高岳を前に本当にあそこの頂上に立てるのか不思議な気持ちになる。北アルプスの中でも人気を誇る穂高連峰は、奥穂、北穂、前穂、西穂などの岩峰からなり、登山コース及び難易度も多彩にある人気の山だ。。右手から大小のピーク(峰)を13登っていき、主だった峰は独標、ピラミッドピーク、チャンピオンピーク。独標を越えたあたりから岩歩きに変わっていくことは事前に調べていたおかげで知っていた。このお調子者アルピニスト達は、山に登る前の準備がなっていないと先輩アルピニストによく怒られる。しかし今回登る西穂高岳は中級者向けのコースであるため事前にヤマレコという登山サイトは確認しておいたのである。穂高連邦の中でも一番高く見えるのが西穂高岳山頂だ。他にも、槍ヶ岳、焼岳、笠ヶ岳などが見える。ロープウェイの乗車時間は10分程度。終着駅の西穂高口駅(標高2156m)には9時に到着。3人の足取りは軽い。ロープウェイを降りて階段を登り、展望台で今から登る西穂高を指差して写真を撮り、さあ出発だ。

「And away we go(さあ出発だ)」3人で叫んだ。

 5分程度歩くと、すぐに山小屋に辿り着く。ここで登山計画を書き、万が一のときに備える。このときばかりは自分が滑落死した場合の関係者への影響を考えてしまう。「まだ死ねないな」。ふと横を見ると伊藤が一番レフを取り出している。そう、伊藤は自称山岳カメラマンなのだ。この男、カメラがよく似合う。僕たちは色づきはじめている葉を見ながら独標に向かって突き進む。木漏れ日が眩しいためこれ以上、眉間に縦ラインが入らないか心配している登山家は私だけだろう。西穂山荘までは樹林帯がひろがり、日陰となるため肌寒く感じることもある。桜前線とは反対に紅葉前線は南下していく。標高によって見える色合いが違うのも醍醐味だ。滑落して口の中が真っ赤に紅葉しないように注意しなければいけないな。始めて使用したステッキも調子が良くいつもより疲労が少なく感じる。登りと下りを繰り返しながら歩きはじめて40分程で西穂山荘に到着した。西穂山壮の前にはベンチがありみんなで腰をおろしウエアを脱ぎ半袖となる。登山は体温調整が非常に大切だ。登山開始直後でまだ体が温まっていなくて肌寒く感じていても、10分も歩けば汗をかく。数人の登山者と挨拶を交わしすぐに出発する。なんせ日帰りなので時間がない。「きつそうだなー」。目の前にする岩場を前につぶやく。ここから先は岩場が多くステッキがお荷物となる。慎重に足場を確認しながら僕らは登る。グローブをはめていたせいで分からなかったが掴む岩が冷たく心地よい。肌をすりすりしたいくらいだ。休みがてら足を止め、後方を振り向くとアルプスの山々が僕らを迎えてくれた。「気持ちいー」。「ウァー」。思わず声が裏返る。

そのとき僕は思った。

家に帰ったら今回の西穂高登山を小説にしようと。

そして今、この小説を書きながら思った。

これが限界だ。

小説の山頂はとてつもなく遠くそして高かった。

ということで山岳小説はここまで。

旅の記録はshinya’s blogか冒頭のYou Tubu(自称山岳ビデオカメラマン編集)をご確認ください。

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この本は面白かったです。
山岳小説では非常に有名な本。
舞台は奥穂高。

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「日本人」で生まれた時点で、おみくじなら、大吉を引いたようなものだ。一方で、「このまま日本にいて大丈夫なのか?」とも、タイの成長スピードを肌で感じて思った。この本を通じて、凡人の岩田ができるなら、自分にも何か出来るはずだ、やってみようと行動に結びついてくれたら大変嬉しい。 岩田でも出来たことは、皆さんなら、もっと出来る!!