"背中を押す" のように "押す"="push"(プッシュ)にはプラス(+)の意味が含まれていることが多いが、リハビリ場面においてはマイナス(-)な事もある。その存在は"Pusher"さんだ。確かに押すがその押す方向を誘導してあげるために僕達が存在する。患者さんにとってプラスになれるように頑張ろう。
Pusherさんとは退院まで仲良くなれない場合がおおく、リハビリテーションの治療成績が悪くなる一要因であろう。
少しでも仲良くなるためにまとめる。
Contents
名称
色々ある。
Pusher syndrome= 押す症候群、Pusher現象、contraversive pushing、pushingなど表記が様々である。網本先生の文献はPusher(押す)現象とある。
定義
Davies の「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して床や座面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」が有名。
発生頻度
5%から50%と言われており、主に急性期で回復する場合が多い。網本先生によると、USNは約30%、Pusher現象はその半分の15%くらいと言われている。
責任病巣
内包、補足運動野、上頭頂小葉、淡蒼球、視床後外側、中心後回、広範囲な病巣など色々と言われているが、どこも直接的な関係はないとされている。結局、分かっていないのだ。
Pusher現象の評価法
Pusher重症度分類
Scale of contraversive pushing (SCP)
http://plaza.umin.ac.jp/~gpt/SCP.pdf
このブログから評価法ダウンロードできます。SCPが現在は主流。
Burke Lateropulion Scale (側方突進スケール)
SCPやPusher重症度分類より、もう少し詳しく評価している。背臥位・座位・立位・移乗・歩行の5項目からなり、抵抗力をみる評価。3点以上をPusher現象あり、最重症度は17点。
詳しくは、こちらから
http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1551104170?src=recsys
PTジャーナル 特集 脳のシステム障害と理学療法 pp. 19-26 視床・頭頂葉系の障害と理学療法
Pusher現象の治療
発生メカニズムも完全に分かっていないため、正しい治療法も当然分かっていません。ただし、視覚が姿勢保持の安定に関わっていることは間違いなさそうなので、「視覚的手がかり」と「垂直指標」はある程度、有効であることは予想がつく。
① "こんな経験ありませんか?"
Pusherの患者さんが立ち上がろうとすると、健側下肢が写真のように前方の外側へ出てしまう。(トン、トン、トンっといった具合で小さく3歩くらい)
「どうして足を前に出すのですか?」と聞くと
「分からない」とたいてい返事がきます。
そんな方に「足を前に出さないでください」なんて言っても効果は低いです。
こういった場合は、逆に支持基底面を狭くして、継ぎ足にすると良いらしいです。
さらに、このような方は、うまく動作を言語化できない患者さんが多い印象です。
言語化できるような難易度のタスクに変えていく必要があります。
どの動作も言語化できないとなかなか治療成績はあがらないと思っています。
② "こんな経験ありませんか?"
臥位でも健側下肢のtoneは高く、突然手を離してもその位置で固まる。力が抜けない。足関節は底屈位となっている。
こんなときは患者さんの足底にセラピストの手掌を当てて、「僕の手の動きについてきて下さい。押したらひく、引いたら押してください。やさしく触れる程度の感覚を保って下さい」と指示をいれます。
たいてい股関節90°くらいで抵抗感が増します。これが立ち上がりの際にお辞儀をしても、健側殿部での体重支持ができず、突っ張ってしまう一原因だと思います。臥位で90°以上の股関節屈曲がスムーズにできるようになったらお辞儀の際の抵抗感は少なくなり離殿につなげられると思います。圧に対して正常な反応が出来るようになることが重要です。
③ "こんな経験ありませんか?"
立位練習を行うと「こわい、こわい」と恐怖心を訴える。
壁にもたれた状態で接触面を増やしてあげることで安心感をあたえて訓練を行うことも大切です。抵抗感は少なくなります。
メカニズムがしっかり分かっていないからこそ治療も様々である。色々試して効果がありそうな訓練を選択していきたい。
最高にオススメする本
Pusher現象について非常に細かくまとまっている。ここまでPusher現象を取り上げた本は今までなかったはずだ。値段も安いのでオススメだ。